本記事ではAI Safetyの全体像を俯瞰するために、(1)俯瞰用の独自整理(上図)と、(2)米国政府の一次資料に基づく整理(下表)を並べて示す。上図は理解のための地図であり、下表はNIST AI RMFとDHSガイドラインに基づくリスク管理の枠組みである。随時更新予定。

図1:AI Safetyの全体像(俯瞰用:独自整理)

AI Safety全体像

図1 AI Safetyの全体像(俯瞰用:独自整理)

AI Safetyを理解するための全体マップ。NISTやDHSが提示する公式分類そのものではなく、複数の論点を俯瞰できるように筆者が整理したもの。

上図は「領域の地図」、下表は「リスク管理プロセスの地図」であり、目的が異なる。

表1:一次資料ベースのリスク管理マトリクス

縦軸は NIST AI RMF の 4機能(GOVERN / MAP / MEASURE / MANAGE)、横軸は DHS の重要インフラ向けガイドが示すリスクの切り口を採用し、セルは一次資料を踏まえた要約である。

Attacks using AIAttacks on AI systemsAI design & implementation failures
GOVERN
統治・責任・方針 [1]

組織として「何を安全とするか」「誰が責任を持つか」を決めるレイヤ。
Policy for misuse [1]

AIが悪用される前提で、禁止用途・許容範囲・通報/停止/エスカレーションをルール化する。
Security governance [1][2]

AIシステム自体が攻撃対象になる前提で、権限・所有者・供給網(モデル/データ/外部ツール)まで含めて責任分界を決める。
Safety requirements [1]

設計品質の失敗を"事故"として扱い、Go/No-Go基準、リリース判断、インシデント責任を明文化する。
MAP
状況把握・リスク洗い出し [1]

「どこで・どう壊れるか」を具体化するレイヤ(脅威モデル、失敗モード、境界条件)。
Threat modeling (misuse) [1][2]

攻撃者像・動機・能力・被害を整理し、どのユースケースが"悪用で致命傷"になり得るかを棚卸しする。
Attack surface inventory [1][2]

RAG、ツール呼び出し、データ、API、プロンプト、権限境界などを「攻撃面」として列挙し、どこが侵入口かを明示する。
Failure-mode analysis [1]

幻覚、分布外、ドリフト、監視不足、人間運用ミスなど、非敵対でも起きる"壊れ方"を列挙して優先順位付けする。
MEASURE
評価・測定・TEVV寄り [1]

「言ってるだけ」から脱出するレイヤ。測って、比較して、回帰テストに落とす。
Misuse evaluation [1][3]

悪用に対する耐性を指標化(例:詐欺・扇動・危険知識生成の成功率、検知率、摩擦設計の効果)して継続測定する。
Security red-teaming [1][3]

注入・漏洩・権限逸脱などをテストケース化し、レッドチームを"単発イベント"ではなく回帰テスト資産にする。
Reliability & safety eval [1][3]

精度だけではなく、頑健性・不確実性・安全停止(止まるべき時に止まる)を測り、実運用での事故率を下げる。
MANAGE
対策実装・運用・改善 [1]

評価結果を受けて、実際に手当てし続けるレイヤ(運用に落とす)。
Mitigate misuse [1]

レート制限、監視、通報・制裁、ユーザー管理など"運用での抑止"を組み込む。
Implement defenses [1][2]

権限分離、サンドボックス、監査ログ、鍵管理、パッチ運用、供給網管理など、侵入される前提の防御を実装する。
Operational controls [1]

監視、ロールバック、更新管理、継続改善(改善サイクル)を回し、性能劣化や事故を運用で吸収する。

表1 AI Safetyのリスク管理マトリクス(NIST AI RMF × DHSガイド)

なお、実際に何が起きたか(事故・害・ニアミス)を具体例で押さえるには、AI Incident Database(AIID)が有用である。[7]

参考文献

[1] NIST, Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0), NIST AI 100-1, 2023.(英語PDF / 日本語PDF

[2] DHS, Mitigating AI Risk: Safety and Security Guidelines for Critical Infrastructure Owners and Operators, 2024.(PDF

[3] NIST, Generative AI Profile, NIST AI 600-1, 2024.(PDF

[4] OWASP, Top 10 for LLM Applications.(Link

[5] MITRE, ATLAS (Adversarial Threat Landscape for Artificial-Intelligence Systems).(Link

[6] NIST, Privacy Framework.(Link

[7] Partnership on AI, AI Incident Database.(Link